会長あいさつ
農業食料工学会長 井上 英二
この度,令和3年6月12日開催の定期総会・理事会において会長に選任され,令和3年度より2年間務めさせて頂くことになりました.会員・産業界・各種団体の皆様方のご支援・ご協力を仰ぎながら微力ではございますが,職務を遂行して参りたいと存じます.昨年来,コロナウイルス感染症拡大に世界的未曽有の危機到来を危惧したことは周知ではありますが,コロナ禍での行動変容が社会生活に浸透し,学会活動も漏れなく制限を余儀なくされ,国内外の例会・国際会議も中止が続き,本年9月九州ブロックでの年次大会も既にリモート開催が決定している状況です.一方,米国ファイザー製等のワクチン接種も国内で広まりつつあり,来年度初頭には感染症拡大の鎮静化が期待されるところ大です.当然ながら日常生活に戻るには時間を要しますが,当面は感染防止に配慮しつつ学会の運営・活動をせざるを得ない事が予測されております.
ご承知の通り,農業食料工学会は近藤会長の下,2019年4月より任意団体から一般社団法人に移行し,2年が経過しようとしています.継承する立場としては,この法人化のメリットを活かしつつ,学会の運営・活動をさらに円滑に推進できる柔軟な体制・組織作りを目指したいと考えております.従前より,常設委員会13に加え4つ部会が有機的に機能していますが,今期の委員会は総合略委員会,法人化検討委員会を一旦閉じて,あらたに法人化後運営委員会ならびに広報担当委員(当面委員会としない)を考えております.特に,広報担当につきましては会員減少の歯止め対策に加え,学会の活性化に有益な情報の提供・提案を担当する会長直轄職として位置づけております.これまで多大にご貢献頂いた産官学退職者の会員継続は会員減少の歯止めと同時に有識者からの貴重な情報提供者として,今後の学会運営に有益なことからシニア会員制度の導入について検討したいと考えております.加えて,法人化後運営委員会は一般社団法人として円滑な法人運営に資する定款の整備・規則の改定等を担当して頂くつもりですが,一般会員・代議員・役員の皆様方からご意見を賜りながら進めたいと思います.
農業就業人口の推移は,2000年の389万人から19年後の2019年には168万人と減少傾向が続いています.一方,耕地面積の推移は,2000年の480万haから2019年の440万haに緩やかに減少しています.その結果,農業就業者個人当たりの負担耕地面積は19年間で1.23haから2.61 haに倍増している状況です.平野部と中山間地の格差は有るものの,少なくとも現状の農業生産を維持するには,農業機械・施設化による労働力不足の解消が必須であります.農業従事者の年齢構成も主要農業先進国の英国,仏,蘭,米国と比較しても65歳以上の高齢者比率が際立って高く,主要農業従事者年齢層が25歳~49歳の欧米諸国とは対照的に労働力不足が顕著となっております.この農業環境の変遷の中,第5期科学技術基本計画Society 5.0を目指したスマート社会の実現に向けた政府の施策より,令和2年3月新たな「食料・農業・農村基本法計画」として,スマート農業の普及・拡大が加速化されています.スマート農業の国内市場規模の推移として2020年度に1944億円,10年後の2030年度に6869億円が見込まれております.農業のスマート化は,本学会の最も得意とする対象領域でもあり,スマート農業関連事業の法人としての参画要請は今後益々高まることが予想されております.本学会の活動としても,農業におけるSociety5.0(超スマート社会)の実現を目指した,“生産から流通,加工,消費までのデータの相互利用が可能なスマートフードチェーン創出”に向けた学術研究・普及活動が期待されております.
農業食料工学会は創立以来84年が経過し,農業機械の開発・普及ならびに収穫後の農産物の乾燥・調整・貯蔵技術の開発・改善による農作業の省力化や農業生産物の品質向上にこれまで大きく貢献してまいりました.現在は,情報・通信・電子技術等のICTを駆使した先端技術の学術領域へと変遷・拡大しております.周知の通り,農業は人類の生命維持活動に不可欠な持続的産業でなければなりません.そのためにも,生産技術の向上・効率化に加えSDGsを考慮した地球環境に優しい食料生産技術の確立を同時に可能にする学術団体を目指す必要があります.このことから,世界の農業・食料・環境問題の将来を展望するに当たり,本学会の役割は今後益々重要となりますので,各種委員会,部会,事務局執行部,ならびに会員皆様方のご協力・ご支援を賜りながら活動してまいりたいと存じますので宜しくお願い申し上げます.