84巻5号

研究論文

促成栽培イチゴの生育診断に資する生体計測手法
──生長点の露出に必要な気流条件の検討──

坪田将吾・難波和彦・深津時広

キーワード: 促成栽培イチゴ,生長点露出,気流,作用位置,作物列

 

 イチゴ栽培の重要な生育診断要素である若葉の画像計測のために,株上方からの気流で株内部にある生長点を露出させるのに必要な条件を検討した。まず,風洞実験で直上から送風した結果,風速6m/sで供試株の95%で生長点が露出し,1秒の間に露出する頻度は89%であった。このとき,第1~3葉を水平に35mm程度,想定通りに株の外側方向へ移動できた。つぎに,作物列方向にクアッドコプタを飛行させて観測することを想定し,送風位置による気流の作用を計測した。風速6m/s程度が葉身に加わる条件では,作物列直上から気流を加えたときに,株の前後400mm長を移動する間の生長点露出頻度が76%と最も高かった。


光位置検出素子を利用したブームスプレーヤの散布高さ検出装置の開発

藤本 与・佐藤禎稔・船引邦弘

キーワード: PSD,ブームスプレーヤ,散布高さ,超音波センサ,CAN,自動制御

 

 ブームスプレーヤの散布高さ自動制御システムの開発を目的として,光位置検出素子(PSD)を3個利用した散布高さ検出装置を開発した。屋外での安定した計測のためにPSDに赤外線透過フィルタを付加したうえで,代表的な畑作物の葉を供試して測距特性を求めた。また,複数のPSDを隣接して使用する場合,相互に干渉して誤動作することから,PSDの最適な配置を実験によって求めた。試作した検出装置の精度評価のために,バレイショほ場で実験を行った。実験結果より,散布高さが約60cmの場合,超音波センサを基準とした検出装置のRMSは5.5cmであり,散布高さを計測するセンサとして有効である知見を得た。


技術論文

ニンニク盤茎判定機とその作業システムの能率

小林有一・ダン クオック トゥエット・ティ クイン アン ファム・土師 健・川出哲生

キーワード: ニンニク,根スリ,ディープラーニング,ニンニク判定機,作業システム,作業能率

 

 ニンニク調製での根スリ作業において,作業者により仕上がり程度に違いが生じることを回避するために,盤茎調製機と併用する盤茎判定機を開発し,これらが組作業するシステムの性能,能率等について試験した。判定機は,盤茎部分の画像から,ディープラーニングにより合格,不足,キズに判定し,それぞれの回収かごに振り分ける機械である。不足と判定された場合には,調製機での再調製と再判定を繰り返すことで,最終的に合格に仕上げる。盤茎調製機との組作業を実施したところ,判定機での判定,振り分けは熟練者の調製作業よりも速く,最終合格率については作業者の習熟度に関わらず,高い合格率での調製が可能であった。


中山間地ほ場における準天頂衛星測位システムによる測位精度

飯田訓久・孫 澤凱・小西 覚・村主勝彦・増田良平

キーワード: 農業ロボット,人工衛星測位システム,リアルタイム・キネマティック方式,センチメータ級測位補強サービス,ロボットトラクタ

 

 中山間地ほ場における準天頂衛星測位システム(QZSS)の測位精度について,ロボットトラクタを用いて調査を行った。ロボットトラクタはリアルタイム・キネマティック(RTK)方式の人工衛星測位システム(GNSS)による自動運転でほ場を耕起した。別途多周波マルチGNSS受信機2台を搭載して,センチメータ級測位補強サービス(CLAS)方式と2つのRTK方式にて異なるほ場7枚でデータを収集し,補強信号の違いによる測位精度と捕捉衛星数を可視化した。その結果,CLAS方式が最も安定した測位が可能であった。


自脱コンバインにおける巻き込まれ事故の未然防止装置の開発(第1報)
──判別手法と試作構成要素の検討──

岡田俊輔・積  栄・志藤博克・松本将大

キーワード: 自脱コンバイン,巻き込まれ事故,手こぎ作業,磁性,安全装置

 

 自脱コンバインの典型的な事故のひとつである手こぎ作業時の巻き込まれ事故を,未然に防止する技術を開発した。既存技術の調査を踏まえ,作業者が磁石を貼付した手袋を着用し,自脱コンバインの手こぎ部に装備した金属センサまたは磁気センサによって検出する手法とした。手袋に貼付する磁石はプラスチック磁石,それを検出するセンサには磁心コイルを利用することとした。2条刈自脱コンバインに磁心コイルを設置し,その周囲金属部品の動作による検出信号へのノイズ低減方法や,検出閾値の決定方法を検討すると共に,手袋に使用するプラスチック磁石の仕様を検討した。