84巻3号

研究論文

ロボットコンバインのためのセマンティック・セグメンテーションによる水稲ほ場画像におけるリアルタイム物体検出
──稲倒伏有無の画素レベルでの検出──

朱 佳俊・飯田訓久・李  楊・陳思カイ・程 詩景・村主勝彦・増田良平

キーワード: 農業ロボット,人工知能,ディープラーニング,イネ倒伏,画像カスケードネットワーク

 

 ロボットコンバインによる安全で効率的な作業を確立するために,水稲ほ場における物体をピクセルレベルで検出するための7つのセマンティックセグメンテーションモデルを開発した。これらのモデルは4種類のデータセットで学習とテストが行われた。その結果,すべてのモデルが水稲ほ場における物体検出で良い性能を示し,推定精度が最も高いモデルの画素精度,平均精度,平均IoU(intersection over union),稲倒伏クラスのIoU,および倒伏存在の検出正解率は,それぞれ0.9719,0.8801,0.8449,0.6933および0.9448であった。組み込みプロセッサ(Jetson Tx2)による640×480画素の画像サイズでの処理速度は14.04 FPS(frames per second)で十分であった。


複数のネックを有する水中ヘルムホルツ共鳴器による魚の体積推定とその精度

田村洋樹・椎木友朗・西津貴久・吉冨 均・Stephen. N. NJANE・緒方康平・Ken. A. OMWANGE・白神慧一郎・鈴木哲仁・小川雄一・近藤 直

キーワード: ヘルムホルツ共鳴器,複数ネック,魚,体積,陸上養殖,給餌,密度

 

 陸上養殖による魚肉の生産量が世界的に増えており,比較的安価である魚肉を陸上養殖により高効率的に生産するためには,生け簀内の魚の体積を知ることで,養殖魚の密度を適正に保ち,給餌量を適正量に管理する必要がある。本実験では実用化を見据え,共鳴器側面の対となる面にネックとして働く開口部を有する,二つの空洞部を持つ水中ヘルムホルツ共鳴器を用い,試料として気泡とウグイ(Tribolon hakonensis)を用いた。気泡を用いた実験により理論式の妥当性とその式を用いた体積推定が可能であるか検証し,実測値と推定値の間に決定係数0.994という高い相関がみられた。ウグイを用いた場合にも実測値と推定値の間に決定係数0.985という高い相関がみられた。


リアプノフ指数を用いたトラクタ非線形ダイナミクスの動的不安定性の評価

渡辺将央・酒井憲司

キーワード: トラクタ,非線形力学,バウンシング,リアプノフ指数,動的不安定性

 

 衝突や横滑りなどの非線形現象は,トラクタの動的安定性を損ない,トラクタ転倒・転落事故の一要因となる。一方,トラクタの安定性は静的転倒角などの静的安定性で評価されており,動的な安定性指標の開発は未だ途上である。非線形力学では,リアプノフ指数がダイナミクスの代表的な安定性指標として利用される。本研究では,トラクタの非線形力学モデルの加速度時系列からリアプノフ指数を算出し,系の動的な安定性識別に適用した。パラメータスタディの結果から,共振ジャンプを引き起こす周波数領域と最大リアプノフ指数が正となる領域が一致し,リアプノフ指数がトラクタの動的安定性指標として必要な条件を有することを確認した。


技術論文

トラクタの危険挙動再現のための実験用走行路及び挙動計測システムの構築(第1報)

井上秀彦・下元耕太・滝元弘樹・原田泰弘

キーワード: トラクタ,走行路,モーションキャプチャ,傾斜地,脱輪,横転倒

 

 本研究は,トラクタ実機を用いた危険挙動再現のための走行路及び光学式モーションキャプチャを用いたトラクタ挙動計測システムの開発を目的として行った。傾斜地の等高線方向への走行時に山側の障害物に乗り上げて横転倒,経路から外れて脱輪して横転倒の2条件の挙動を再現可能な走行路を構築した。無線化した機関出力7.7kWのトラクタを用いて転倒試験を行った結果,機材の破損なく試験が可能であった。また,モーションキャプチャを用いた計測システムにおいて,計測精度を確保するためのプロトコルを考案した。


トラクタの危険挙動再現のための実験用走行路及び挙動計測システムの構築(第2報)

井上秀彦・下元耕太・滝元弘樹・原田泰弘

キーワード: トラクタ,走行路,モーションキャプチャ,傾斜地,脱輪,横転倒

 

 本研究は,第1報で構築した走行路及び計測システムを用いて,トラクタの動的転倒を再現し,その挙動を計測するための手法を確立することを目的とした。トラクタ重心の左右方向に反射マーカを取り付け,解析ソフトウェア上でその中間に仮想点を設置することで,モーションキャプチャによる重心の挙動計測が可能であった。また,トラクタの重心の上下方向加速度及び3軸回りの角速度について,モーションキャプチャと慣性計測装置で得られた計測値は同等の正確度で取得可能であった。更に,本システムにより,トラクタの前後車軸及び重心位置の動的な挙動及びねじれを計測可能であり,動的横転倒角の解析に有効であることを示した。