83巻5号

研究論文

模型サブソイラの単純な鉛直方向への加振による所要動力増大を伴わないけん引抵抗の低減について

オイェタヨ オルコレデ オイェボデ・ラクトゥ マララ アンドゥニアイナ・庄司浩一

キーワード: 心土破砕,振動耕うん,けん引抵抗,速度比,けん引抵抗比,所要動力比

 

 鉛直方向に加振した模型サブソイラのけん引抵抗比及び所要動力比を求めた。振幅を5, 10, 15 mm, 振動数を2, 3, 4 Hz, 走行速度を0.05, 0.20 m s-1と変化させ,速度比0.3から7.5の範囲にて実験を行ったところ,けん引抵抗比及び所要動力比はそれぞれ平均で0.65及び0.89であった。けん引抵抗比は振幅とともに減少し,走行速度とともに増加した。所要動力比は走行速度とともに増加したが,振動数や振幅の影響は有意ではなかった。速度比4程度が最適とみられた。けん引抵抗と所要動力の低減をもたらした主たる原因は,シャンク前方のチゼルの持ち上げによる土の破砕と亀裂の伝播によるものと観察された。


周波数領域および振動強度に基づく歩行式トラクタの振動特性に関する研究

プン ソヴァタナ・井上英二・光岡宗司・岡安崇史・平井康丸

キーワード: 歩行式トラクタ,振動加速度,周波数解析,r.m.s値,振動低減

 

 カンボジアでは中小規模の圃場で歩行式トラクタの使用が著しく増加し,作業の省力化と効率化の向上をもたらしている。本研究ではアイドリング時にエンジン回転数を変化させ,歩行トラクタの7つの異なる部位での加速度を計測した。その結果,低周波数でのエンジン上部の位置における左右方向の振動が最も大きく,次いで異なる周波数域でハンドル部の上下方向の振動が大きい値を示した。ハンドルからアーム部に曝露される振動は全てのエンジン回転速度においてガイドランを超える傾向があり,振動対策の必要が示唆された。


ロボットコンバインのガレージ出庫と農道走行を目的とした自動運転システム
――SLAMを用いたガレージからの出庫――

壽山智也・飯田訓久・李  楊・中村俊輔・小西修平・村主勝彦・増田良平

キーワード: 農業ロボット,ロボットオペレーティングシステム,光による検知と測距,simultaneous localization and mapping,点群

 

 ロボット農機による作業の省人化・効率化をさらに進めるには,ほ場内の作業だけではなく,ガレージからほ場までの自動走行が有効である。本研究では,ロボットコンバインがガレージからほ場まで自動走行することを最終目的として,ガレージ出庫の自動化を行った。LIDARで計測されるコンバイン周辺の点群を用いたSLAMにより,コンバインの位置推定を行った。この位置推定結果に基づき,出口中心から約4 m離れ,左右に±0.8 mずれた初期位置から速度0.2 m/sで出口中心に向かって自動走行する実験を行った。この結果,SLAMで推定した位置情報によりガレージ内での自動走行を実現し,出口中心に対して左右に±0.12 mの誤差で走行ができた。


水田と畑における農作業事故の発生プロセスに関する考察

田村孝浩

キーワード: 農作業事故,農作業安全,人身事故,物損事故,事故発生の特徴

 

 本研究では,水田と畑で起きた農作業事故の発生プロセスを,事故発生前・事故発生時・事故後の観点から紐解き,その発生傾向と特徴を明らかにした。分析の結果,水田と畑で頻発する事故は,耕うん・整地中に農業用車両が静止物に接触・衝突するものであり,物損事故全体の17 %を占めた。また破損した静止物の80 %は,給水・排水設備や壁などであった。この他に,人身事故や物損事故の一定数において,非農家が損害を受けている実態が明らかになった。これらの結果を踏まえ農作業事故を削減するための方策として,頻発する事故パターンに対応したほ場整備や注意喚起が重要であることを指摘した。


水田用ロボットで収集した画像を用いた水稲の茎数予測システム(第1報)
――物体検出アルゴリズムYOLOv4を用いたほ場内での水稲茎数予測の適用性の検討――

Dhirendranath SINGH,市浦 茂,Thanh Tung NGUYEN,佐々木由香,片平光彦

キーワード: 生育調査,深層学習,水田用ロボット,精密農業,茎数,YOLOv4

 

 茎数の計測は,水稲栽培で最も時間を要する作業の一つである。本報は “はえぬき” と “ふくひびき” 2品種の分げつ初期,分げつ盛期,最高分げつ期の画像を水田用ロボットで取得し,深層学習で茎数を予測するシステムについて検討した。物体検出用アルゴリズムYOLOv4による茎数予測モデルは,実際の茎数を基にしたクラス,茎数をグループ化したクラス,各生育ステージでの茎数分布を基にグループ化したクラスの3種を用いた。実験の結果,茎数の分布を基にグループ化したクラスは,各生育ステージのmAPが “ふくひびき” で62.3,67.5,73.5,“はえぬき” で61.3,63.5,49.8とそれぞれ最も高いスコアを示した。